iDeCoによる節税額のシミュレーション
前回の記事では、iDeCoの「3つの節税メリット」という謳い文句が非常に誤解を招きやすいという事で、かなりボロクソに書いてしまいました。
金融機関の広告はiDeCoの節税メリットを強調しすぎていますが、前回の記事では逆に貶め過ぎたかなと密かに反省しています。
今回の記事では中立な立場に戻って、ごく平均的なサラリーマンAさんがiDeCoを使って運用した場合と使わずに運用した場合、どれくらい差がつくのかをシミュレーションしてみたいと思います。
前提条件
・Aさんは現在30歳。22歳で新卒で入社して勤続8年目。
・これからiDeCoを始めて、60歳の定年まで30年間iDeCoを続ける予定。
・年収は440万円(2018年のサラリーマンの平均年収)
・iDeCoの掛け金は、月2万円(掛け金の上限が企業年金のある会社で2万円、無い会社で2.3万円のため)
・運用先の商品では、運用利回り5%で30年間運用できたと仮定
・iDeCoは全額を一時金として受け取る
・60歳で退職金1983万円を受け取る(2018年の大卒定年退職者の平均退職金)
iDeCoで運用した場合
まずはiDeCoで運用していた資産がいくらになるのかを計算します。
年間24万円を年率5%で30年間複利運用すると、約1669万円になります。
運用益は非課税なので、AさんのiDeCo口座の資産評価額は30年後にはそのまま1669万円(元本720万円、利益+949万円)と表示されている事でしょう。
ただしこれは前回の記事で書いた通り、「課税前の金額」なので注意ですね。
さて、Aさんが実際に受け取れる金額を計算してみます。Aさんの額面の退職金とiDeCoの資産評価額を合計すると、
1983万円 + 1669万円 = 3652万円
となります。
またAさんの勤続年数は22歳から60歳までの38年間となりますので、退職所得控除は前回記事の通り2060万円です。この退職所得控除を引くと、
3652万円 - 2060万円 = 1592万円
ここで退職所得の1/2が課税所得となるので、課税退職所得は
1592×1/2 = 796万円
となりました。税率は所得税の累進課税が適用されるので、695万円を超え900万円までの税率23%(控除額63.6万円)となり
(796万円 × 23%) - 63.6万円 = 約120万円
という事で、約120万円の税金を取られるという事になります。
最終的に60歳でAさんが受け取れる金額は税引き後で
3652万円 - 120万円 = 3533万円
という事で、3533万円になりました。
給与として受け取り自分で運用した場合
次に、比較対象としてiDeCoを使わず自分で運用した場合にいくら受け取れるのか考えてみます。
iDeCoに拠出する分を給与として受け取り、分配金の出ない(途中課税されない)投信にその全額を投資します。
投信はiDeCoと同じく年率5%で複利運用されていくものとします。
iDeCoに拠出せず毎月2万円、年間24万円を給与として受け取った場合、所得税20%(年収440万円の場合)を引いて手取り額は
24万円 × 80% = 19.2万円
これが1年間で投資できる金額になります。これを30年間5%複利で運用すると、約1336万円(元本576万円、利益+760万円)となります。
これを60歳で全て売却したとすると、含み益への分離課税を20%として税額は
760万円 × 20% = 約152万円
となり、
1336万円 - 152万円 = 1184万円
が税引き後の受け取り額となります。
この場合は退職金1983万円は全て退職所得控除の中に納まるので非課税で受け取れるため、
1983万円 + 1184万円 = 3167万円
というのが60歳で受け取れる退職金との合計額になります。
2つを比較してみると…
という事で、ごく平均的なサラリーマンAさんが60歳の時に受け取れる金額は
・iDeCoに拠出した場合は約3533万円
・給与として受け取って自分で運用した場合は約3167万円
となりました。差額で見るとiDeCoを使った方が366万円ほどお得になります。
ここでよくある勘違いが「iDeCoだと給与受取時にも所得税が減っているので、その分も足さないとダメなんじゃないの?」という事です。
確かにiDeCoだと現役時代の所得税が
年間24万円 × 所得税率20% × 30年間 = 144万円
ほど安くなっていますね。確かにこれは見かけ上は節税になっているように見えます。
しかし所得税は安くなっていますが、手元に残るお金はiDeCoに拠出した場合も、拠出せず税引き後のお金を投資した場合も変わりません。
そして最終的にはiDeCoの場合も課税されるのですから、受け取れる金額で見るべきでしょう。
このように「見せかけの節税」ではなく「実際に受け取れる金額」にフォーカスして節税額を計算した結果が上記の366万円という数字です。
よくある金融機関のシミュレーションではこの「見せかけの節税」を計算している事が多いですね。
もっとも、本気で節税額を計算しようと思ったら上記のように細かな前提条件が必要なので、難しいというのは理解できるところではあります。
運用利回りを変えた場合
さて、366万円という数字を見てどう思ったでしょうか?予想より多かったですか?少なかったですか?
実はこの数字は様々な要素で変わってくるんですが、大きく変わる要素の一つに運用利回りの設定があります。
前回の記事の最後に「iDeCoのキモは運用にある。元本と利益の課税繰り延べ効果こそが本質で、所得税の節税を期待するものではない」というような事を書きました。
これからその事について考えていきます。
まずは上記シミュレーションの他の条件は変えずに、運用利回りだけ変えて最終的に受け取れる金額を計算した結果がこちらです。
◆運用利回り0% (元本保証型)
iDeCo:2681万円 自分運用:2559万円 差額:122万円
◆運用利回り1% (国内債券など)
iDeCo:2792万円 自分運用:2638万円 差額:154万円
◆運用利回り3% (内外債券、一部株など)
iDeCo:3090万円 自分運用:2850万円 差額:240万円
◆運用利回り5% (株・債券バランスなど)
iDeCo:3533万円 自分運用:3167万円 差額:366万円
◆運用利回り7% (ほぼ世界株100%)
iDeCo:4165万円 自分運用:3643万円 差額:522万円
如何でしょうか?運用利回りが変わると、差額が大きく変わりますよね。
課税繰り延べ効果というのは利回りが高いほど威力を発揮します。これこそがiDeCoの最大のキモだと考えています。
つまりある程度はリスクを取っても利回りの高い商品を選ばないと、長期間の資金拘束に見合うだけの節税効果が得られないかもしれない、という事です。
iDeCoの広告ではあたかもiDeCoに拠出しているだけで節税になるかのように書いてありますが、実際は運用利回りでかなり差が出る事は覚えておきたいですね。
まとめ
Aさんの例だと、iDeCoで運用した場合は自分で運用した場合に比べて受け取れる金額が366万円も多くなりました。
しかし自分で運用した場合は、60歳までの間で最終的には1336万円ものお金を自分の裁量で使える状態だった(資金拘束を受けなかった)という点は認識しておくべきかと思います。
これだけの金額があれば、急な事故や病気、子供の教育費が予想外にかかった場合など、かなり色々な事態に対応できるでしょう。
しかしiDeCoで運用をしていた場合、これらは60歳まで引き出せないお金、いわゆる資金拘束となってしまいます。特に日頃のキャッシュフローに余裕の無い方は慎重な判断が求められます。
一方で60歳までのキャッシュフローに不安がなければ、元本保証商品でも約122万円、運用利回り7%であれば522万円もiDeCoの方が得になるという結果となりました。利回りによってはかなり大きな差がつきますね。
これは勤続年数や退職金額が大きく関わってきますので、この数字を鵜呑みにせず是非ご自身でも計算してみて下さい。私も素人なので計算が間違っている可能性もあります。
ちなみに私が自分の条件で計算した場合は、56歳でアーリーリタイアをする場合で約240万円ほど得になりそうでした。(運用商品は利回り5%で計算)
アーリーリタイアに関するiDeCoの控除額は15年ルールとか重複期間ルールとかあって非常にややこしいので、今回は割愛します。しかし退職所得控除がかなり少なくなるので注意が必要です。
私は幸い60歳までのキャッシュフローにも余裕がありそうなので、資金拘束のリスクに見合うと判断してiDeCoに拠出を続けています。
皆様も是非ご自身の条件に合わせた判断で、無理のない範囲でiDeCoを活用してみて下さい!
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