確定拠出年金(iDeCo)に関する誤解


こんにちは、青空ビーチです。
今回はツイッターや各種ブログ等で蔓延する確定拠出年金(iDeCo)に関する誇大広告や誤解について、ツッコミを入れていきます。

誤解を解くためあえてiDeCo(の誇大広告)に批判的な立場で書きますが、私自身もこの制度を使っていますし、中身を理解した上で使うなら良い制度だと思っています。制度そのものを批判したい訳ではないという事はご承知おき下さい。

確定拠出年金の種類


まず確定拠出年金には企業型と個人型があります。この個人型の方の愛称が「iDeCo」と呼ばれています。

私の勤務先では企業型が導入されていますが、企業型を導入している企業はあまり多くないと思うので、一般的には確定拠出年金=iDeCoというイメージかもしれません。

そしてどちらもこれから書く内容に関しては共通なので、この記事では両方まとめてiDeCoと書く事にします。

iDeCoで3回も節税になる!?


よくiDeCoの紹介では

・掛け金が全額所得控除されて、所得税の節税になる!
・さらに運用益にかかる税金(約20%)が非課税になる!
・そして受取時も控除の対象となり一定額が非課税になる!


と3回も節税できるように書かれる事が多いと思います。これは1つ1つは間違いではないのですが、非常に誤解を生みやすい書き方だと思っています。

ではこの3つの節税のどこが誤解されやすいのか、これから詳しく確認していきたいと思います。

まずは次の架空ストーリーにお付き合い下さい。

架空ストーリー「Aさんの給与減額」


Aさんはある会社に勤めるサラリーマンです。
ある日、Aさんの会社の社長が言いました。

社長「来月からAさんの給料は今までより毎月2万円減額するね」

Aさん「えっ、何故ですか!私なにか失敗しましたか?」

社長「いや、特に理由は無いけど、その方が所得税が安くなるから節税になるでしょ?」

Aさん「えっ?節税?どういう事ですか?」

Aさんの疑問はもっともな話です。確かに給料が減れば所得税はその分安くなりますが、その分給料を減らされては元も子もありません。それで節税とは、まったく酷い話です。

しかし詳しく話を聞いてみると、まんざら悪い話ばかりでも無いようです。

社長「いやね、今は給料を減らすけど、減らした金額分は運用して、退職する時に退職金として全額あげるよ」

社長「今は手取りは減るけど、所得税はその分減るし、退職する時には減らした分全額に加えて運用益まで貰えるんだから良い話でしょ?」

Aさん「確かに退職時に減額分に加えて運用益まで貰えるなら得になりますね。あっ、でも…」

金融リテラシーの高いAさんは何かに気付いたようです。

Aさん「数十年分の給料の減額分と、その運用益だと相当な金額になるはずです。それを受け取る時の所得税は凄く高くなりませんか?

社長「そこに気付くとはさすがAさんだね。大丈夫、心配いらないよ。退職時には退職所得控除が使えるから、かなりの金額までは非課税で受け取れるよ」

Aさん「確かにその通りですね!じゃあ来月からの給料の減額、受け入れます!」

さて、あなたはこのツッコミ所満載の茶番劇()にどんな感想を抱いたでしょうか?笑

本当に節税になってるの?と疑問に思ったなら、その感覚を大事にして欲しいと思います。

給与を減額される事は節税なのか


上記のストーリーではiDeCoの本質を見るため、あえて「給与を減額」と書きました。

現実問題、iDeCoの掛け金システムは60歳まではほぼ同様の事が行われていると言っても過言ではありません。

「運用して後から全額返す」と言って、毎月の給料を掛け金の分だけ減額しているのと同じなのです。

(厳密には勤務先とは別に安全に管理され、転職時に持ち運べるなどの違いはありますが)

もちろん給与を減額してその分を老後のために運用しておく事自体は、悪い事ではありません。

しかし給料が減った分だけ所得税が減る事を節税と呼ぶのには少し違和感があります。

受け取っていない給料分の所得税を払わないのは当然ですよね。

しかも将来そのお金を受け取る時には(控除はあるものの)しっかり課税対象になるので、これで給与受取時まで所得税を取られていたら二重課税です。

つまり「掛け金の全額が所得控除」という小難しい言葉で節税を演出していますが、要は「掛け金分の給料を減らしたので、所得税もその分減らすよ」という事です。

なので当然ですが「節税」と言いながら60歳以降の受け取り時までは手取り(可処分所得)は1円も増えず、むしろ減ります

「年収〇円なら、一年あたり〇円の節税になります」と、さも現役の間から毎年節税効果が出るような書き方はミスリードですので、誤解しないよう注意が必要です。

ご丁寧に年収を入れると節税額がシミュレーションできるサイトもありますが、これは「受取時に完全非課税で受け取れた場合の節税額」だという点に注意しましょう。後述しますが、この完全非課税での受け取りには色々と条件があります。

金融機関がiDeCo口座を開設させたいがため、こういう書き方をしているのは正直どうなんだろうと思います。

制度をよく知らない人がそんな広告を見たら「毎年こんなに節税になるのか!」と誤解してしまうでしょう。

実際に節税効果が出るのは60歳以降にお金を受け取る時になってからです。それまでは給料を減らしている分の所得税が減るだけで、1円たりとも手取りは増えません。

運用益が非課税


続いて2つ目の「運用益が非課税」という謳い文句についてです。この表現もよく見ますね。

確かに運用中は利益に課税されないというのは事実です。

しかし考えてみて下さい。例えば分配金を出さない投資信託も、運用中は非課税ですよね。課税繰り延べ効果があり、効率的に運用できるという意味ではiDeCoと同じなのです。

つまりこれは、配当や分配金、あるいは売却(利確)などで所得が生じる時には課税されますが、含み益の間は課税されないというごく当たり前の事を言ってるだけで、本来わざわざiDeCoのメリットとして強調するようなものではありません。

ここで忘れてはならないのは、そうした投信も売却時(利確時)にはそれまでの含み益も含めてまとめて課税対象となるという事です。

参考:分配金ありと無し、どちらが良いのか

iDeCoも同じで、運用中は非課税でも最終的に受け取る時にまとめて課税対象となるという点に注意が必要です。

あくまで「途中の運用益が非課税」なだけです。NISAのように「受取時の最終的な運用益が非課税」というのとは意味が全く違います。

iDeCoの場合は60歳以降に一時金か年金という形で受け取る訳ですが、その際に退職控除はあるもののしっかり所得税の課税対象となります。

受け取り時に控除があり非課税になる


最後に3つ目の謳い文句についてです。

これもiDeCoの紹介でセットになって使われる事が多いですが、一つ非常に重要なポイントがあります。

それは、この控除は別にiDeCoをやってなくても使えるという事です。

大事な事なのでもう一度言います。

「退職所得控除」も「公的年金控除」も、iDeCoとは全く関係なくそれ以前から存在する制度です!

確かにiDeCoで運用したお金を受け取る時に、この控除は非常に大きな味方になります。

しかし、別にiDeCoで運用していなくても普通の退職金にもこの控除は使えるのです。

それをあたかも「iDeCoならではのメリット」のごとく書いている広告が多いですよね。

そもそも退職所得控除は、退職一時金(いわゆる退職金)が出る時に、所得額が一時的に大きくなって所得税が多額になるから減税してあげよう、という制度です。

また公的年金控除は、本来は公的年金を受け取る時に一定額までは控除があるという制度です。iDeCoを年金として受け取る場合にも併用できますが、サラリーマンの場合は厚生年金と合算すると控除額を超えてしまうケースが多いようです。

両方ともiDeCoならではの制度では無く、あくまで昔からある制度をiDeCoにも使えるというだけです。

退職所得控除について


さて、では退職所得控除は一体どれくらいあるんでしょうか。控除額は勤続年数によって変わります。

20年以下の場合、40万円×勤続年数
20年超の場合、800万円+70万円×(勤続年数-20年)

という事で、大卒フル勤続38年(22歳~60歳)とすると2060万円の控除枠(非課税枠)があります。

かなり大きな非課税枠ですね。iDeCoをやっていなくても使える制度ですが、iDeCoで運用額が大きくなった時に強い味方となるのは間違いありません。

ではこの2060万の非課税枠から、iDeCoに使えるのはどの程度でしょうか?答えは退職金の金額で変わります。

2018年のデータによると「大卒・定年退職」の退職金は平均1983万円だそうです。「高卒・定年退職」だと平均1618万円でした。

もちろん会社の規模や役職で退職金も大きく変わってくると思いますが、退職金制度のある会社に勤めている方は要注意ですね。会社からの退職一時金だけで退職所得控除の非課税枠は殆ど使い切ってしまう可能性があります。

そうするとiDeCoで積み立てていたお金はどうなるのか。答えは退職所得控除を超えた額の1/2に「所得税」がかかります

某金融機関のiDeCo広告では「1500万円まで非課税(掛け金30年の場合)」なんて書いてありますが、この金額は【退職金も込み】である事に注意が必要です。

退職金の出ない会社なら良いですが、退職金制度があり平均より高い給料を貰ってるというような方は退職金だけで控除枠はほぼ使い切ってしまうので、iDeCoの受け取り額は全く非課税にはなりません!

いかに「〇〇万円までは非課税」というのが誤解を招く表現であるかお分かり頂けたでしょうか。

他にも転職をする場合や、私のようにアーリーリタイアを計画している場合なども勤続年数が減り退職所得控除が少なくなるので要注意ですね。

なお、転職した場合やパート等の場合はiDeCoの拠出期間を勤続年数としてカウントする事もできるようなので、この部分はメリットと言えるかもしれません。

課税されるのは運用益だけではない


さらにもう一つ注意点があります。

iDeCoで運用をしていると「資産評価額」という名目で現在、元本がいくらで含み益がいくらなのか確認できると思います。

順調に資産が増えているのを見てニヤニヤしてしまうのは、私だけではないはず(笑)

ところで通常の投資では資産のうち運用益だけに課税され元本には課税されませんが、iDeCoでは元本と運用益の両方が課税対象となります。

◆通常の投資:「運用益」のみに約20%の「分離課税」が発生(特定口座の場合)

◆iDeCo:退職所得控除を超えた分は「元本+運用益」の1/2に5%~45%の「所得税」が発生

なぜiDeCoでは元本にまで課税されてしまうんでしょうか。それは、元本は未だ所得税を払っていない「まだ自分の懐に入ってないお金」だからです。

給料の「額面」は税金を引かれた後に初めて「手取り」=「自分の懐に入ったお金」となります。iDeCoで運用中の資産は、この「自分の懐に入ったお金」ではなく「額面」に相当するものです。

架空ストーリーで「給与を減額しているのと同じだ」と書いたのはそういう事です。課税後の手取り給与(自分の懐に入ったお金)から投資をするのとはだいぶ意味が違ってきますね。

なので、資産評価額(額面)だけを見てニヤニヤしていると思ったより手取りは少ないかもしれません。

参考:確定拠出年金(iDeCo等)の手取りはいくら?

まとめ


さて、iDeCoの紹介でよく使われる3つの節税とその誤解について書いてきましたが、如何だったでしょうか?

1つ1つの説明は嘘ではありませんが、実際には最初の2つは見かけ上の節税で、最後の1つ(受取時の退職所得控除)によって真の節税額が決まります。

とはいえ、ちゃんと考えて使えば多くのケースでは節税になり、確実に老後資金を残せる良い制度だと思っています。

特に厚生年金も退職金も無い自営業やパートの方にはお勧めできる制度です。退職金控除をiDeCoで蓄えた資金にフル充当して完全非課税で受け取れば、かなりの節税効果を得られるでしょう。

逆にサラリーマンは退職金や厚生年金があるので、実際どの程度節税できるのか、それが60歳までの資金拘束リスクに見合うのか、慎重な判断が必要だと思います。

金融機関の広告を見て、あるいはその受け売りの記事やツイートを読んで「なんか3回も節税になってお得じゃん?」ってレベルの方は是非一度、自分の予想退職金などを元にざっくりと受取時の「本当の非課税額」を計算してみると良いと思います。

別に計算が正確である必要はありません。ただ一度計算という過程を踏めば、どういう場合に有利になり、何をすると不利になるのか分かるはずです。

iDeCoというのは簡単に言えば給料の受け取りを遅らせて運用しておいて、後から退職金控除の枠で受け取るという制度です。

なのでiDeCoのキモは、あくまで運用にあると私は思っています。元金と運用益の課税繰り延べ効果を期待するものであって、現役時代の節税のためにやるものでは無いと考えています。

自分が受け取る何十年後かに税制が変わっていて「退職所得控除が減ってしまった」という悲惨な結果に終わる可能性もありますので、あまり節税メリットを過信しすぎず余裕資金でやる事が大切だと思います。

次の記事:iDeCoによる節税額のシミュレーション

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