持ち家と賃貸どちらがお得?


投資界隈でもよく議論を呼ぶ話題「持ち家と賃貸、どちらが得なのか」
今回はこの禁断の話題()に切り込んでみたいと思います。

あらかじめ断っておきますと、私は現在持ち家に住んでいます。就職した当初は会社の独身寮に住み、結婚した時に賃貸マンションに引っ越して5年ほど住んでいました。そして2人目の子供が生まれた時に戸建てを購入して現在に至ります。ポジショントークにならないよう気を付けますが、一応お伝えしておきます。

そもそも「得」とは?


さて「持ち家と賃貸どちらが得か」と漠然と言っても、実は「得」という言葉も結構幅が広いですよね。そもそもこの部分で議論がかみ合ってないという場面も何度か見たことがあります。
一般的には「経済的・金銭的に有利」という事になると思いますが、「分譲は住み心地が良い」とか「賃貸は気軽に引越しできる」とかそういう話を「得」の概念の中に取り込み始めるとキリが無くなってしまうので、その話は一旦置いておくことにします。ここでは「持ち家と賃貸、どちらが経済的・金銭的に有利なのか」という定義としておきます。

この前提を置くとどうしても定量的な考察にいってしまいがちなようで、住まい探し系のサイトなんかを見ていても様々な条件を設定して試算した上で「こちらが有利でした」なんて書いてあったりもします。しかし、「結論ありき」で条件を設定して計算を行うと実はどちらにでも転べます。住居というのは前提となる条件設定の幅が広すぎて、どちらが有利なようにも設定できてしまうからです。不動産って二つと同じものが無い上に、同じ部屋でも契約時期によって家賃が違ったりしますからね。

私はゴリゴリの理系なので今までの記事も試算やシミュレーションが多かったんですが、今回はあえて定量的な話ではなく一切計算を交えない話でいきたいと思います。

投資的に考えるなら持ち家が有利


さて、ここで結論を言ってしまうと「持ち家の方が金銭的には有利になる可能性が高い」となります。投資っぽい言い方をするなら「持ち家にはリスクがあるが、その分リスクプレミアムがある」という事です。投資界隈では不動産をやってる方も多いと思いますし、REITの分配金なんかも同じ仕組みなので釈迦に説法かもしれませんが、少し説明します。

持ち家だと物件価格そのものの他に、ローンの金利、固定資産税、修繕費などがかかります。一見するとこれらを不動産のオーナーが支払ってくれる賃貸に分がありそうですが、実は家賃というのはこれらの費用を間接的に全て負担させられています。それどころか、不動産オーナーは一般的にはこれらの他に、少しくらいの期間なら空室になっても赤字にならないよう利益を上乗せして家賃を設定しています。また管理方法によっては中間管理費用も含まれている事もあります。

「一般的」と書いたのは、株式などペーパーアセットと比較すると不動産というのは市場の歪みが出やすく、売買や貸借において適切な値付けが行われていないケースがあるからです。単純にオーナーの見通しが甘かったという事もありますが、いわゆる事故物件になってしまった、隣人がヤバい人で入居者が居つかないなどの場合、家賃に大きな下落圧力がかかります。そういう物件を探して住むなら、賃貸の方がかなり得になるケースもあります。あとは探すのが大変そうですが、オーナーが利益度外視の慈善事業でやってる場合とかですかね。

しかし平均的なケースで見れば、その物件を買うか借りるかで比較するなら買った方が得(ただしリスクを負う)という事になります。借りる場合は家賃という形で間接的に固定資産税、修繕費、ローン金利、オーナーの利益を全て支払うという事なので、オーナーの利益の分だけ損をするという事ですね。通常、物件というのは「借りる」「買う」で別々になっていて、ある1つの物件に対して「買う」か「借りる」の選択肢が提示されていて比較できるケースは少ないですが、もし全く同一の物件に両方の選択肢があったら価格(家賃)はそうなるはずです。そうじゃないとリスクを背負うオーナーにメリットが無く、買う人が居なくなりますからね。 

では持ち家一択なの?


という事で「一般的には持ち家の方が経済的・金銭的に有利である」というのが私の持論なんですが、じゃあ誰にでも持ち家をお勧めするかというとそんな事はありません。先ほどから何度か書いていますが、持ち家にはリスクがあるからです。

持ち家を買うというのは、見方を変えれば「不動産投資として家を買い、自分が借り手となってその家を借りる」とも言えます。一般的に不動産投資には下記のリスクがあると言われていますが、持ち家として買う場合について考えてみます。

空室リスク
空室リスクについては、自分が借り手となって住んでいる限りは空室になる事はないのであまり関係ありません。しかし転勤などで家を貸し出さなければならなくなった場合は、もし空室になってしまうとローン返済は持ち出しになるためリスクと言えます。

価格下落リスク
買った時より不動産の価値が下落するリスクです。これも売却しない限りは表面化しないので、投資ではなく居住用として買う場合にはあまり関係ありません。しかし失業などでどうしても売却しなければならなくなった場合、損をするリスクはあります。

家賃下落リスク
家賃相場が下がっていくリスクですね。これも自分で住んでいるうちは関係ありません。

金利上昇リスク
変動金利でローンを組んでいる場合は、金利が上昇して総返済額が増えるリスクがあります。固定金利なら関係ありません。

修繕リスク
これはリスクというよりは、経年変化で修繕にかかる費用ですね。賃貸の場合でも間接的に支払うのですが、持ち家の場合は計画的に自分で貯めていく必要があります。

トラブルリスク
「もう住んでいられない」と思うような事故や事件に巻き込まれるリスクです。強盗、殺人、隣人トラブルなどですね。稀なケースですが一定割合は存在します。精神的に耐えられない場合やはり自身は引っ越して売却か賃貸に出す事になりますが、告知事項にあたると上記の価格下落リスクや家賃下落リスクへと繋がる可能性もあります。

火災地震リスク
火災や地震に遭うリスクです。火災・風災・水災に関しては適切な保険に入っていれば満額出ますが、地震は半額しか出ないので大きなリスクとなります。地震に強い住居を買うしかないですね。

以上が持ち家を不動産投資として見た場合のリスクとなります。経済的なメリットがある場合、リスクを請け負わなければならないのは経済学の常ですね。これらのリスクが顕在化しやすいのは、

・転勤その他の理由で持ち家に住まず、他人に貸し出さねばならない可能性が高い人
・収入が安定せず、不本意なタイミングで持ち家を売却しなければならない可能性がある人
・属性的に不利な条件(金利)でしかローンを組めない人
・修繕費用を計画的に自分で貯めておく事ができない人

などです。これらの条件に当てはまる場合は相対的にリスクが高まるので、無理して持ち家を買う必要は無いかもしれません。一方で

・利便性が高い
・充分な耐震性がある
・周辺環境が良い(近くに変な住人が居ない)

などの条件を満たす物件であれば、例え自分が引っ越す事になっても貸し出す事ができます。一般的には同レベルの物件なら賃料よりも住宅ローンの支払いの方が安くなるので、キャッシュアウト無し(もしくはプラス)で貸し出せる可能性が高いです。転勤や減収などの可能性が高くても不動産投資と割り切って購入するのも一つの手かもしれません。

私の知り合いも持ち家を購入した後で転勤になってしまったのですが、購入した家は貸し出し、賃料がローンの支払い額を上回っているので収支はプラスになっているそうです。他人が自分の家のローンを支払ってくれるなんて最高ですね。固定資産税や修繕費を考えるとトントンのようですが、まさに不動産投資と言えます。転勤になると持ち家がある人は家賃補助が多く出るという会社もあると思いますので、勤務先の制度を調べてみるのも面白いかもしれません。

逆に、結婚して子供が出来て家を買ったけど、離婚してしまって家を手放したという知り合いもいます。財産分与や養育費など、離婚そのものが大きな経済的リスクではありますが、持ち家のリスクの一つともいえるかもしれませんね。ちなみにその知り合いは時期が良かったのか、たまたま買った時より高く家を売れたそうですが、離婚した上に売る時も大損していたら目も当てられません…。こうしたリスクがある事は頭に入れておくべきでしょう。

様々な節税スキーム


ここまで持ち家を不動産投資として見た場合のメリットとリスクを書いてきましたが、実は他にも持ち家ならではのメリットがあります。それは住宅ローン減税相続税の圧縮です。
住宅ローン減税に関しては様々なところで紹介されているのでここでは詳しくは書きませんが、年間最大40万円が戻ってきます。月額で3万円ちょっとの節約ですね。ここまで述べてきた通り減税が無くても持ち家の方が経済的には有利なんですが、制度が利用できればさらに得になります。

次に相続税に関してです。一般的な「持ち家と賃貸の比較」記事では通常一世代だけの計算をしているのであまり出てきませんが、子供がいて次世代へ相続を行う予定がある場合は大きなメリットになります。なぜなら現金で遺すより不動産で遺した方が相続税が安くなるからです。こちらも詳細を書きだすとそれだけで数本は記事か書けるボリュームになるのでここでは書きませんが、少なくとも2割、条件によっては8割ほど資産評価額を圧縮する事ができます。

特に2019年に40年ぶりとなる相続税の大改正が行われ、一般的な資産額の家庭でも相続税の支払い額が増加しました。資産が多いほど節税効果も大きいので、富裕層の間では亡くなる前に相続のための不動産を買って、相続してすぐに売却して節税する、という事も行われているほどです。資産額が大きいと売買に関わる手数料を支払っても節税額の方が大きいのです。あまり露骨に短期売買をすると脱税を疑われるそうですが、居住用に買って何年も所有している家であれば全く問題ありません。もちろん子供がそこに住む必要は無く、相続してから売却すれば後から現金として受け取れます。

私は2世代以上での相続まで考慮した「賃貸と持ち家の比較記事」は見たことがないのですが、使用用途に困るような田舎の物件でない限り、子供への相続を考慮するとほぼ確実に持ち家が特になると思います。

最適な広さの住居に住み替える戦略


ここまで持ち家が経済的に有利であるという事を紹介してきました。しかし賃貸にはローンを負わなくて済む、気軽に住み替えられるなどの大きなメリットがあります。つまり精神的な気楽さを取るか、経済的な有利さを取るか、とも言えるかもしれません。

またこの賃貸のメリットを生かした節約術もあります。家族の人数に合わせて最適な広さの家に住み替えるというものです。独身のうちは狭いワンルームで、結婚したり子供ができたらその都度、少しずつ広い家に引っ越していくというものですね。そして子供が独立して広い家が必要なくなったら、また狭い家に引っ越して老後を過ごす。その都度、適切な広さの家に住む事で家賃を圧縮でき、ずっと広い家に住み続けるより経済的に有利になる、というものですね。

・持ち家は家族の人数に関係なくずっと広い家に住み続ける
・賃貸は家族の人数の増減に合わせて最適な広さの家に住み替え続ける

という前提で話をする場合、確かに賃貸の方が経済的にも有利になる可能性があります。これも住む地域や引越し回数・引越し代の想定などによるので、細かい条件を設定し始めるとやはりどちらにでも転べるという事になりますが、大都市であれば物件数も多いので理想に近い形で住み替えができそうです。

しかし「持ち家」は本当にずっと広い家に住み続けなければいけないのでしょうか?私もそうでしたが購入するタイミングというのは子供が出来るなど、家族の人数がある程度確定した時が多いです。就職したり結婚した直後にいきなりファミリー向けの広い家を買う人は少ないでしょうし、それは私も推奨しません。

という事は、少なくとも「家族の人数が決まるまでは賃貸」とすれば、前半部分のデメリットは無くなります。あとは老後に狭い家に引っ越すかどうかなんですが、これまで述べてきたように持ち家だから引っ越せないという訳ではありません。

広い家が必要なくなったタイミングで賃貸として貸し出して、小さな家を賃貸で借りて住むという手もあります。あるいは家を売却してしまい、小さな家を買い直すという手もあります。経済的なメリットを取る方法は色々ありますが、これらの選択肢を持つためには「貸し出しやすく、値下がりしにくい」つまり価値の落ちにくい家を買う事が必要ですね。

逆に、資産に余裕があり経済的なメリットを取る必要がない場合は終の棲家として広い家に住み続ける事もできます。現実問題、狭い家から広い家に引っ越すというのは気分的にも物理的にも気楽なものですが、モノが増えてしまった広い家から狭い家に引っ越すというのはなかなか大変なものです。子供だって独立してすぐに広い家に住める訳ではないですから、必要ないもの(特に思い出の品など)は実家に置いていくケースも多いと思います。いざ夫婦2人になって狭い家に引っ越そうと思ったけど、子供のモノの処分に困ったという話はよく聞きます。

こうなってくると、賃貸そのものは気楽なのですが、常に最適な広さの家に住み替えるというのは言うほど気楽ではないかもしれませんね。

まとめ


これまでの話をまとめます。
  • 比較サイトの試算は参考程度にはなるが、それだけで持ち家と賃貸どちらが得か判断するのは危険
  • 持ち家にはリスクがあるが、その分リスクプレミアムがあるので得になる可能性が高い
  • ただし持ち家のリスクの評価は慎重にするべき
  • 節税という面からは、(特に子供がいる場合は)持ち家に軍配があがる
  • 最適な広さの家に住み替え続ける前提なら条件によっては賃貸が得になる
という事で長々と色々と書いてきましたが、私の結論としては「持ち家と賃貸のハイブリッド型」を推奨します。独身のうちや結婚当初は賃貸に住み、家族の人数が決まった(生涯独身の場合や、子供がいない場合も含む)と思ったら持ち家の購入を検討する。購入にあたっては「終の棲家」ではなく、不動産投資のつもりで価値の下がりにくい物件を買い、何らかの事情で引越しをする場合に売却・貸し出しどちらも対応できるようにしておく。子供の独立などで広い家が必要なくなった場合は、賃貸に戻る事も検討する、というものです。

「ハイブリッド型」とか言ってみましたが、なんだか凄く当たり前の結論に落ち着いた気がします。投資と同様で、持ち家にもメリットとリスクが存在するので、「どちら派」と固執せずに、うまくリスクを抑えてメリットを生かす良い所取りが出来ると良いですね!

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